「有償ストックオプション」は、会社が発行した「ストックオプション」を役員・従業員が発行価額を支払うことで購入するタイプの「ストックオプション」です。
役員や従業員が「発行価額(ストックオプション1個あたりの価値)」×「ストックオプション」の金銭を会社に支払います。
発行価額とは、ストックオプション1つあたりの価額のことをいいます。役員・従業員が会社の発行したストックオプションを購入する際は、発行価額に応じた代金を支払うことになります。仮に1つ1,500円のストックオプションを100株購入する場合、合計で150,000円支払う必要があります。
発行価額は、現時点での株価や将来の変動予測を使って算出することが求められます(公正価額)。ただ、有償ストックオプションは発行価額が公正価額を下回る場合もあるため、実際の発行価額を株価より大幅に抑える企業も中にはあります。
「有償ストックオプション」は、発行時に、株式を取得できる権利行使の条件として、達成すべき業績や株価が定められています。その条件を満たした時、「ストックオプション」を保有している役員や従業員は、行使価額を支払って権利行使し、株式を取得することができます。
行使価額は、役員・従業員がストックオプションの権利を行使した際に、会社が支払う価額のことをいいます。役員らは、ストックオプションの権利を行使することで、発行価額と行使価額の差額の利益(キャピタルゲイン)を得られます。
行使価額は現時点での株価より高い価額を設定する必要があります。参考とする株価は、直近で取引された自社株の株価か、所定の計算方法に基づいた株価を用います。所定の計算方法に基づく株価の算出は、直近での株取引がない場合に限ります。
取得した株式が値上がりしたタイミングで売却すると、役員や従業員は、その差益を手に入れることができます。
役員や従業員が購入する「有償ストックオプション」は、税務上、「給与」ではなく「金融商品」とみなされるため、給与所得課税(最大約55%)ではなく、譲渡課税(最大約20%)が適用されるので税率が低くなります。
役員がお金を支払って取得する「有償ストックオプション」は、「役員報酬」とみなされていないため、役員報酬決議をとる必要がありません。
「有償ストックオプション」の発行は、役員や従業員が申し込み時に一括で発行価額を支払わなければいけません。そのため、購入した役員や従業員は、モチベーションが高まり、株価を上げるために離職せずに業績を上げようと努力します。
「有償ストックオプション」は「無償税制適格ストックオプション」とは違って、付与対象者が役員と従業員に限定されていません。自社の業務に貢献している外注事業者などに付与することが可能です。
「有償ストックオプション」は、権利を取得する時も、権利を行使する時も金銭の一括払込が必要です。そのため、資金がある特定の役員や従業員だけが利用できる制度になってしまうリスクがあります。
「有償ストックオプション」を発行する際には、「公正価値」に基づく「発行価額」を設定しますが、専門家でなければ算定できないので、その分の費用がかかります。
「有償ストックオプション」は、一定の業績や株価を達成できないと、役員や従業員が権利行使できない仕組みになっているため、業績や株価によっては権利行使ができない場合があります。
有償ストックオプションの会計処理は、会社が上場しているか、上場していないかによって異なります。以下にそれぞれの会計処理をまとめました。
有償ストックオプションの発行時、払込金は貸借対照表(バランスシート)に「新株予約権」として計上します。権利行使が確定(失効)するまでの期間は、損益計算書に経費として計上します。計上する価額は、「ブラック・ショールズ式」や「二項モデル」で算定される公正な評価額でなくてはなりません。算定された公正評価から払込額を引いた額を費用として処理します。
有償ストックオプションの発行時は、上場企業と同じように払込金を「新株予約権」として貸借対照表に計上します。損益計算書には、本源的価値が発生していない限り費用計上する必要はありません。「本源的価値」は、時価から行使価額を引いて算出します。
有償ストックオプションと無償ストックオプションは、根本的に異なる特徴を持っています。
まず、有償ストックオプションは、役員や従業員が会社から新株予約権を時価で購入することで、将来的な株価上昇の恩恵を受ける権利を得るものです。一方で、無償ストックオプションは、会社が従業員に対して無料で新株予約権を提供する制度です。
これにより、従業員は株価上昇の利益を享受することができますが、当初の費用負担はありません。
有償ストックオプションの大きな特徴は、従業員がストックオプションを購入する際に初期費用を支払うことです。この支払いにより、従業員はより意識的に会社の成長に貢献する動機付けがされます。
また、税務上は「有価証券」として扱われるため、売却時の利益に対してのみ譲渡所得税が課税されるというメリットがあります。これにより、税制上の負担が軽減される可能性があります。
無償ストックオプションと比較して、有償ストックオプションは従業員が自己資金を投じることから、その権利に対する関与度やモチベーションが異なります。
無償ストックオプションは、従業員にとってリスクが低いため、積極的な投資意欲を引き出すことが難しい場合があります。一方で、有償ストックオプションは、初期投資が必要であるため、従業員の会社へのコミットメントが深まると考えられます。
しかし、資金負担が必要なため、従業員の経済的状況によっては参加が難しい場合もあります。
有償ストックオプションは、税制上の利点も大きな魅力の一つです。従業員がストックオプションを購入する際には初期費用を支払うため、税務上は「有価証券の購入」と見なされます。これにより、売却時のみ譲渡所得税が課税され、税負担が一定程度軽減される可能性があります。
特に、売却時の税率が給与所得課税の最大55%ではなく、譲渡所得課税の約20%であることは大きなメリットです。
有償ストックオプションは、従業員が対価を支払って取得するため、税務上は労働の対価としての扱いがなく、有価証券の取引として見なされます。これにより、税制上のメリットを享受できる点が大きな利点です。
従業員は売却時にのみ譲渡所得課税を負担し、売却時の利益に対する税率が低く抑えられます。
有償ストックオプションの税制上の最大の利点は、課税のタイミングと税率の違いにあります。無償ストックオプションでは、権利行使時と売却時の2回にわたって課税される可能性がありますが、有償ストックオプションの場合は売却時のみの課税となります。
また、課税される税率も、給与所得課税の高い税率ではなく、譲渡所得課税の低い税率が適用されるため、税負担が大幅に軽減される可能性が高いのです。
有償ストックオプションは、その運用においていくつかの注意点があります。特に、会社と従業員の双方に影響を与える要素がいくつか存在します。
有償ストックオプションは、従業員が対価を支払って権利を取得するため、会社法上、役員に対する報酬とは見なされません。その結果、役員報酬としての決議が不要で、取締役会の決議のみで発行が可能になります。
これにより、有償ストックオプションの付与に関する手続きは、無償ストックオプションに比べて迅速かつ柔軟に行えるようになります。
有償ストックオプションは、税制適格要件の制約を受けないため、会社はより自由に設計を行うことができます。例えば、業績に応じて権利行使価額を変動させることや、特定の成果を達成した場合のみ行使可能とする条件を設けることも可能です。
このような自由度の高い設計は、会社の特定の戦略や目標に合わせたインセンティブプランを作成する上で非常に有効です。
有償ストックオプションには、無償ストックオプションにはない特有のデメリットも存在します。これらを理解し、適切に対処することが重要です。
有償ストックオプションの最大のデメリットは、従業員が初期投資として資金を負担する必要があることです。これにより、資金力のない従業員はストックオプションの機会を享受することが難しくなります。
この問題を解決するためには、会社が従業員向けの資金支援プログラムを設けるなどの対策が考えられます。
有償ストックオプションには「下限強制行使条件」を設定することがあります。これは株価が特定の水準まで下がった場合に、権利行使を強制する条件です。この条件は権利行使のタイミングを最適化するために設けられますが、従業員にとってはリスク要因となる可能性があります。
会社はこのような条件を設定する際に、従業員への影響を十分に考慮し、適切な説明とサポートを提供する必要があります。
有償ストックオプションを導入する際、適切な付与対象者の選定は非常に重要です。適切な対象者に付与することで、有償ストックオプションの効果を最大限に発揮することが可能になります。
有償ストックオプションは、創業者や特定の役員にとって特に有効なインセンティブツールです。これらの人物が、上場前など株価の低い段階でストックオプションを取得し、会社の成長とともに株価が上昇することで、大きなキャピタルゲインを得ることが可能です。
また、上場前に権利を行使することで、創業者の持分比率を改善したり、上場時に株式を売却することも可能になります。
有償ストックオプションを付与する際には、税務上の考慮も重要です。付与対象者は、税制適格要件を満たすことが少ないため、税務上の負担を考慮して適切な対象者を選定する必要があります。
また、権利行使時や売却時の税金負担を考慮し、付与対象者が経済的に適切な選択を行えるよう、十分な情報提供とサポートが必要です。
有償ストックオプションについて、その概要、無償ストックオプションとの違い、メリットとデメリット、付与対象者などを詳しく解説しました。有償ストックオプションは、無償ストックオプションとは異なる特性を持ち、特定の条件下で非常に強力なインセンティブツールとなり得ます。
そのため、会社は有償ストックオプションのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な対象者に対して慎重に設計し、付与する必要があります。
メリットが多い「有償ストックオプション」ですが、発行価額や行使価額を理解し、業績・株価条件を検討しなければならないので、高い法務・会計・税務の知識が必要になります。
当サイトでは、ニーズ別に主な有償ストックオプションの設計・評価機関を紹介しています。ぜひ参考にしてください。
上場企業、金融機関・官公庁、スタートアップ企業のそれぞれが直面するストックオプションに関する課題は異なり、最適なパートナー選びがその成功を左右します。資金調達の柔軟性、企業価値評価の公正性、インセンティブ設計などの課題に対応するためには、専門的な知識と経験が求められます。
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