「株式報酬型ストックオプション」は、「ストックオプション」を取得する役員と、株主、それぞれにメリットがあるため、退職慰労金の代替制度として広まりはじめています。
「株式報酬型ストックオプション」は「ストックオプション」の権利行使価額を低く(1円)設定する制度です。権利行使価額を1円にすると、権利行使時に「ストックオプション」と実際の株価が同額になります。株価が下落しても、「ストックオプション」を付与された役員は、下落した株価と同額で株式を購入できるというメリットがあります。
借方:株式報酬費用、金額:60,000円、貸方:新株予約権、金額:60,000円
1年目の会計処理の例です。
翌年も同じ仕訳をします。
借方:当座預金、金額:1円、貸方:資本金、金額:30,001円
借方:新株予約権、金額:60,000円、貸方:資本準備金、金額:30,000円
借方:仕訳なし
会社は株式の売却には無関係なので仕訳はしません。
借方:新株予約権、金額:60,000円、貸方:新株予約権戻入益、金額:60,000円
「株式報酬型ストックオプション」を利用する役員に課税される税金は次のようになります。
権利行使期間が退職から10日間に限定されているものは「退職所得」として、税金の優遇措置が受けられます。
株式報酬型ストックオプションは、会社側と従業員の双方にメリットをもたらします。
株式報酬型ストックオプションは、従業員の給与として損金算入できるため、会社側にとって会計上のメリットとなります。これは、株式報酬型ストックオプションが「税制非適格」にあたるためで、会社が損金算入するタイミングは権利行使時です。
ただし、従業員への発行時に発生した価額は全額損金として算入できますが、役員への発行時に発生した価額は一部しか損金算入できない点には注意が必要です。
株式報酬型ストックオプションに限らず、すべてのストックオプションにも言えることですが、会社が成長すれば株価が上がるため、そのぶん、売却時に受け取れる金額「キャピタルゲイン」が増えます。従業員が企業に貢献して業績が上がれば株価が上がる可能性があるわけですから、多くの従業員が「会社の成長に関わりたい」と思うようになり、モチベーションアップにつながるのです。
ストックオプション制度を導入している企業は求職者からも人気が高く、結果として優秀な人材の獲得につながる可能性もあります。
株式報酬型ストックオプションの場合、権利行使のタイミングが退職時になります。最大55%の給与課税ではなく最大45%の退職金課税が適用されることになり、従業員が税金を安く抑えられます。また、権利行使時には退職所得控除が適用されるため、低負担で権利を行使できる点も従業員側のメリットとなります。
株式報酬型ストックオプションで得られるのは、メリットだけではありません。以下のようにデメリットも存在します。
株式報酬型ではないストックオプションであれば、権利行使価格以上の利益を目指そうという意識が働きます。
しかし、株式報酬型ストックオプションの場合は権利行使価額が限りなく安い1円に設定されているため、行使価格が設定されているストックオプションに比べると、そこまでインセンティブは働きません。
株式報酬型ストックオプションで、固定の金額で株式を毎月支給している企業では、逆インセンティブになってしまう可能性がある点には留意しなくてはなりません。従業員が在職中は株安を維持しようと企業に貢献せず、退職が近づくときだけ株高に期待する意識が働くのが原因です。
従業員のモチベーションを上げるために導入したストックオプションが、企業側の意図とは全く逆になってしまう場合があります。
従業員は未公表の会社情報を持つ可能性があるため、インサイダー取引の対象となります。そのため、取得した株式を売却しても、いつでも現金化できるわけではありません。タイミングによっては現金化できない場合があります。
「株式報酬型ストックオプション」は、受け取る報酬が株価に連動するため、株式市場の動向によっては、役員が受け取る報酬額が目減りするリスクがあります。「株式報酬型ストックオプション」以外の他の報酬制度と組み合わせるなど、退職金制度全体のバランスを考慮しましょう。
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