「ストックオプション制度」を導入・運用するには、「ストックオプション」に、株主・役員・従業員などの関係者全員が納得できるような価値が不可欠。そのために、常に価値算定が行われています。ここでは「ストックオプション」の公正価値算定の方法について見ていきましょう。
「ストックオプション」の価値算定を行う計算式はいくつかありますが、いずれの方法を使う場合も、データを事前に調査・算定しておくと計算が楽になります。
「ストックオプション」を従業員に付与した日から、権利が確定した日まで。
取締役会または株主総会で決められた「ストックオプション」発行数の総合計。
従業員が自社株式を購入するために払い込んだ金額。
権利が付与されてから、実際に従業員等が株式を購入するまでの期間。
この価額と権利行使時点の実際の株価との差額が、従業員が手に入れられる利益となります。
従業員が権利を付与されてから権利を行使するまでのボラティリティは、過去の株価実績を元に予測します。
権利付与から権利行使までの期間中に発生すると予測される配当額を、株価で割った数値。
一般的には国債の利子率を使います。
ここでは、「ストックオプション」の公正価値算定に使われる代表的な計算式の3つを、比較します。
「ブラック・ショールズ式(BS式)」とは、1973年にアメリカの経済学者であるフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズが共同で発表し、その後同じくアメリカの経済学者ロバート・マートンによって証明された、オプション価格を算出するための理論式です。
計算に必要となるデータは市場で入手できること、さらに関数化・一般化されているために計算が楽に済むといったことから、広く利用されている計算方法となっています。
また、1997年にはブラック・ショールズ式を確率したマイロン・ショールズとロバート・マートンはノーベル経済学賞を受賞しています(フィッシャー・ブラックは受賞の2年前に逝去しています)。
ブラック・ショールズ式で計算を行う際に必要なデータは下記となっています。
ブラック・ショールズ式はもともと無配当株のオプションを計算する、ということを前提とした計算式だったものの、その後に配当有りの場合、為替オプションを前提とした式などさまざまな形で拡張されることによって、広く利用されているオプション価格計算式となっています。
ただし、前提として基本的に「ヨーロピアン・オプション(オプション満期時にだけ権利行使が行えるタイプのオプション)」にのみ対応している点もブラック・ショールズ式の特徴といえます。
また、ブラック・ショールズ式は難解なことでも知られています。ただしこちらの式を反映したExcelフォーマットもインターネット上で公開されているため、必要なパラメータさえ準備しておけば計算ができるという点は、ブラック・ショールズ式がもつ特徴のひとつといえるでしょう。
「二項モデル」も、ストックオプション公正価格を算定する方法としてよく知られている方法です。オプション評価方法において、上記でご紹介しているブラック・ショールズ式と並んで代表的な方法とされています。
二項モデルは、オプションの権利行使期間について細分化を行い、株価を上昇・下落→上昇・下落…といったように場合分けを行い、将来の株価推移を予測して現在のオプションの価値を推定する方法です。こちらの方法は、「ツリーモデル(場合分けをしている図が枝状に分岐するため)」や、「格子モデル(全体が格子状になるため)」といった名称でも呼ばれています。
この方法とブラック・ショールズ式のふたつを比較すると、二項モデルの方がシミュレーションは複雑にはなるものの、オプションの発行条件が複雑なタイプにも対応が可能である、という点が特徴となっています。
また、ブラック・ショールズ式の場合は理論的にはヨーロピアン・オプション(権利行使満期日にのみ行使が可能)の評価にしか適応できないものの、こちらの二項モデルの場合はアメリカンオプション(権利行使期間中にいつでも行使可能)にも適用可能である、といった点も特徴のひとつとなっています。
ただし二項モデルの場合には解析式がないことから、計算を行うためには専用のソフトウェアが必要である、という点もポイントのひとつといえるでしょう。
日本の場合、発行されているストックオプションはその多くがアメリカンオプションであることから、本来はこちらの二項モデルでの計算が必要といえます。ただし前述の通り二項モデルの場合計算が非常に複雑となってしまうことに加えて、二項モデルとブラック・ショールズ式で差が見られるのは、かなり複雑な設計を行ったストックオプションの場合となることなどから、Excelを使用することによって計算が簡単に行えるブラック・ショールズ式を用いるケースが多くなっています。
「モンテカルロ・シミュレーション」は、「多重確率シミュレーション」とも呼ばれる方法であり、乱数を用いたシミュレーションを繰り返すことによって、不確実な事象が偶然に起こりうる可能性を推定するための数学的技法です。
各物理学者のスタニスワフ・ウラムがこちらの手法の原型を考案し、数学者ジョン・フォン・ノイマンが有効性を実証したという歴史があります。また、モンテカルロ・シミュレーションという名前は、カジノでよく知られるモナコ公国のモンテカルロ地区という名称から取られています。
モンテカルロ・シミュレーションは、財務やプロジェクト管理、株価、販売予測などリスクを想定したり、リスクや不確実性による影響を評価するために用いられることが多い計算方法です。さまざまな条件を持つオプションのバリエーションに対応が可能ですが、計算過程が非常に複雑であり、時間がかかるといった点が特徴となってきます。
実際にモンテカルロ・シミュレーションを行う場合には、コンピュータでのシミュレーションを繰り返すことによってデータの収集や分析を行うことから、計算に必要な時間については「何回シミュレーションを行うか」という部分によって変わってくることになります。
ただし、結果を早く得るために計算時間を短くしようとしてシミュレーション回数を少なくした場合には、適正な価格に辿り着かないといった可能性があることから、通常は十万回程度のシミュレーションが行われています。このことから、非常に処理能力が高いコンピュータを使用することができない場合には、シミュレーションには数時間もの時間が必要となると予想されます。
また、モンテカルロ・シミュレーションの場合の計算結果はシミュレーションの結果によって求められることから、毎回計算結果が異なるという点がデメリットとして挙げられます。毎回の計算結果が異なる、ということは、結果の検証が難しいということにもつながります。
ストックオプションと言っても、「通常型ストックオプション」「株式報酬型ストックオプション」「有償型ストックオプション」の3つに分けられます。それぞれの特徴を具体的に見ていきましょう。
メジャーなストックオプションで、権利行使価額は権利が付与された時点での株価以上の金額に設定されるケースがほとんどです。権利が付与された従業員などは株価が上昇し、権利行使価額が上回った場合に差額分を受け取ることができます。もし上回ることがなければ、その権利を放棄することも可能です。税制適格ストックオプションも通常型ストックオプションに属しています。
株式自体を報酬といているストックオプションのことで、権利行使価額は1円に設定されるケースが一般的です。株価が上昇・下降した影響が反映され、権利行使期間は中長期型が多いですが、短期に設定する場合もあります。
有償型ストックオプションとは、従業員などに対して時価で発行することです。権利を付与された時点での株価と同じ、または少し低めに設定されます。設計によっては従業員などへの節税効果などが期待できるでしょう。
信託型ストックオプションとは、信託制度を組み合わせたストックオプションのことです。発行したストックオプションは信託として預け、期間終了まで保管。業績などに沿ってストックオプションへ交換できるポイントを従業員へ付与し、期間終了後はポイント数に合わせたストックオプションを受け取れます。信託の時点でストックオプションの権利は留保されるため、従業員は株価変動の影響を受けづらいのが特徴です。
信託型ストックオプションは、株式売却時に譲渡所得として課税されると考えられていました。しかし、2023年に国税庁は給与所得として税務処理すべきとの考えを提示したため、税率の大幅なアップが懸念されます。
株式売却時の譲渡所得は分離課税であり、給与所得に関わらず税率は一定です。一方、給与所得は総合課税になっており、所得に応じて所得税の税率が変動します。そのため、従業員が権利を行使した際に税金の負担が増える可能性があります。
参照元:【PDF】国税庁_ストックオプションに対する課税(Q&A)
ストックオプションを取得したら、条件次第ではその利益を確定申告しなくてはなりません。確定申告のタイミングはストックオプションの種類ごとに異なるため、所有している種類に応じて対応するようにしましょう。
税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時(購入時)には「給与所得」として、売却時には「譲渡所得」として確定申告をする必要があります。
ただし、権利行使後の株式が証券会社の「特別口座」に入っている場合、損益計算を行う必要はなく、源泉徴収の対象となる場合があります。
特別口座とは、2009年1月5日に実施された「株券電子化」の前に、証券会社を通じて「証券保管振替機構(ほふり)」に株券を預託しなかった株主を保護するために開設された口座のこと。いわゆる「タンス株券」や、証券会社に預託はしていたものの自己名義で預託していた株券を管理するための口座です。
税制適格ストックオプションが課税されるのは売却時のみで、権利行使時には課税されません。
税制適格ストックオプションは会社法で定められた無償発行であることと譲渡禁止規定があること、付与契約時の時価以上の行使価格を設定するなど、数々の要件を満たしているためです。税制適格ストックオプションを所有している場合は、売却時に確定申告を行いましょう。
有償ストックオプションは、税制非適格ストックオプションや税制適格ストックオプションとは異なり無償で付与されるものではありません。
そのため、権利行使時には課税の対象外で、確定申告が必要なのは売却時のみです。ただし、権利行使の際に株価が上昇していた場合、差額の利益分に対して税金が課されます。
ストックオプションで発生する税金の計算は、ストックオプションの種類によって計算方法が異なります。それぞれでかかる税金の計算方法は以下の通りです。
税制非適格ストックオプションは、権利行使時と株式譲渡時(売却時)の2回課税されるタイミングがあり、それぞれ計算方法が異なります。
権利行使時に適用される税率は、所得税と住民税を合わせて10.105~55.945%で計算されます。所得税率は金額に応じて変わるため、給与所得額が多いほど課税額は高くなります。
それに対し、株式譲渡時の税率は給与所得に関係なく20.315%と一律です。また、実際の計算では、以下の計算式に「復興所得税」が課されます。税率を確認する際は復興特別所得税込かどうかもあわせてチェックしましょう。
有償ストックオプションも、税制適格ストックオプションと同じく株式譲渡時に税金が発生します。ただし、計算時に発行時払込額(株を発行するときに企業に払う金額)を含めて計算しなくてはなりません。計算式は以下の通りです。
参照元:国税庁
譲渡所得などの所得税の確定申告の期限は、所得のあった年の翌年の2月16日から3月15日までと決まっています。
税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時にも所得が発生します。所得の分類は給与所得ですが、所得税の確定申告として所得のあった年の翌年には確定申告をするようにしてください。
ストックオプションを取得した、または譲渡したにも関わらず確定申告をしなかった場合、税務署から指摘や罰則が課せられる可能性があります。
過去3年分にさかのぼって申告漏れがあると、税務署から追徴課税や重加算税の請求を受けてしまうこともあります。
申告漏れは修正申告によって正せますが、事前通知後や税務調査後など、タイミングによっては追徴徴税や延滞税も課せられる可能性があるため注意してください。
法律・会計・税務上のリスクを避けるために、「ストックオプション」の適正価値での評価が求められます。自社のニーズに応えることのできる設計・評価機関に依頼することが重要です。
当サイトでは、ニーズ別に主なストックオプションの設計・評価機関を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
上場企業、金融機関・官公庁、スタートアップ企業のそれぞれが直面するストックオプションに関する課題は異なり、最適なパートナー選びがその成功を左右します。資金調達の柔軟性、企業価値評価の公正性、インセンティブ設計などの課題に対応するためには、専門的な知識と経験が求められます。
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